鉄不足で起こる「鉄欠乏性貧血」とは
女性の健康 監修 山本 佳奈先生
疲れが取れない、やる気が起こらないなどの症状に思い当たる節はありませんか?それはもしかしたら「鉄不足」が原因の貧血かもしれません!「鉄欠乏性貧血」の症状とその対処法についてAll About「女性の健康」ガイドである山本佳奈先生が答えます。
「鉄欠乏性貧血」って何?
赤血球内の鉄が不足することによって起こる貧血です。
体内の鉄が不足すると、赤血球細胞内の重要なタンパク質であるヘモグロビンが減り、全身へ酸素を十分に運ぶことができなくなります。
血には再生不良性貧血や悪性貧血などがありますが、大部分が鉄欠乏性貧血であり、2006年の論文によると約13,000人を対象とした大規模調査で、日本人女性の17.3%が鉄欠乏性貧血に罹患していると発表されました。これは世界的な問題だと医学誌でも問題視されています。
出典:International Journal of HEMATOLOGY “Prevalence of Anemia among Healthy Women in 2 Metropolitan Areas of Japan”
どんな人がかかりやすいの?
女性に多く、ストレスやダイエットなどが原因で起こりやすくなります。
「鉄欠乏性貧血」チェックリスト
□ ストレスを溜めがち
□ 睡眠不足
□ ダイエットをしている
□ 菜食主義である
□ 外食やインスタントなどの加工食品が多い
□ お酒をよく飲む
□ 妊娠・出産経験がある
□ 氷をよく食べる
※上のリストに1つでも当てはまる人は注意しましょう。
ストレスや睡眠不足、極端なダイエットにより、鉄の摂取が減ると貧血の原因になります。また、アルコールは造血作用のある葉酸が腸で吸収されるのを阻む働きがあるため、飲みすぎは要注意です。
女性は生理中の失血により鉄欠乏性貧血や鉄欠乏状態になりやすく、特に妊娠中は赤ちゃんに栄養を送るために母体から多くの血液(鉄)が送られるので鉄欠乏性貧血になりやすいと言われています。間食、偏食、無理なダイエット、外食、インスタント食品の多食など食生活が乱れている人や、血球をつくる骨髄の機能が低下している高齢の方も注意が必要です。
鉄欠乏性貧血の主な症状は?
体が酸欠状態になることで、疲れやだるさ、息切れなどを引き起こします。
鉄欠乏性貧血の特徴的な症状は以下の通りです。
・疲れやすい
貧血で体が酸素不足になると代謝が悪くなり、だるさや肩こりなどの症状が表れます。めまいや立ちくらみ、息切れなども同じ原因によるものです。
・眠れない
人によって症状はさまざまですが、太もも、ふくらはぎ、そして足の裏にまるで虫がはっているような不快感のある「むずむず脚症候群」も鉄欠乏性貧血や鉄欠乏状態の人に多いと言われています。
・爪が弱くなる
場合によっては、爪が弱ったり、薄く割れやすくなったりすることもあります。鉄欠乏性貧血の人は爪の先がそり返る「スプーンネイル」にもなりやすいと言われています。体の各組織にある鉄が減ることで、髪や皮膚にも影響を及ぼすことがあります。
・氷を大量に食べてしまう
鉄不足の人に見られる症状として、氷をガリガリむさぼるように食べる「氷食症」があります。製氷皿の氷を一度に食べ尽くしたり、氷以外にも生米や煎餅などの堅いものをガリガリと食べたりする人もいます。
・月経の出血量が多い
経血量の多い「過多月経」は、貧血を起こす原因の一つ。また、子宮筋腫などの病気が潜んでいることもあるので注意が必要です。
貧血の症状として、めまいやふらつきを連想される方も多いのですが、起立性低血圧が原因の場合もあります。
・体内の総鉄量について
成人の体内には約4,000㎎の鉄があり、その70%は赤血球のヘモグロビンです。残りは肝臓や脾臓にある貯蔵鉄と、筋肉や皮膚にある組織鉄として構成されています。女性は、月経、出産、妊娠など、鉄の量が多いのでしっかりと補ってあげる必要があります。
1日に必要な鉄の摂取基準量※
1日に必要な鉄の摂取基準量
男性:7.0㎎
女性:10.5㎎ (月経あり)/6.0~6.5㎎ (月経なし)
※18~49歳の男性と女性を対象とした場合の推奨量を記載~厚生労働省『日本人の食事摂取基準』(2020年度版)より~
効果的な対処法は?
投薬治療の他、栄養たっぷりの食事も効果的です。
原因となっている疾患の治療や、鉄剤を服用して体内の鉄を補う治療が一般的です。鉄を多く含むカツオやマグロなどの赤身魚、レバーや牛の赤身肉、ほうれん草などの青菜類などを摂取し、栄養バランスのとれた食事を心がけることも大切です。
赤身の肉や魚の「赤」色と血液の「赤」い色素は、ヘモグロビンに含まれる鉄と酸素が結合する現象によって生じる同じ「サビ」の色です。そのため、鉄不足が気になる方は、肉や魚を選ぶ時により「赤い色」の食材を意識すると良いでしょう。
また、“鉄の王様” と言われていたひじきは、昔に比べると鉄の含有量が少なくなったと言われています。昔は鉄釜でひじきを茹でていましたが、最近はステンレス鍋が主流になったことが原因として考えられます。食品だけでなく、調理器具や調理方法に気を遣うことも貧血対策に必要かもしれません。
その他、意外と知られていませんが、「大豆イソフラボン」が含まれる豆類も鉄分が豊富。イソフラボンは主に大豆の胚芽部分に多く含まれるポリフェノールの一種で、抗酸化力に優れています。また、大豆イソフラボンは女性ホルモンとよく似た働きを持つ成分です。女性ホルモンの減少によって起こる更年期障害や骨粗しょう症、生活習慣病を予防できるので、女性には強い味方になると思います。
- 今回相談にのってくれた先生
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山本 佳奈先生
1989年生まれ、滋賀県出身。2015年、滋賀医科大学医学部医学科卒業。南相馬市立総合病院(福島県南相馬市)を経て、ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、ときわ会常磐病院(福島県いわき市)非常勤医師・特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、日本医師会認定産業医。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。
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