感染症を予防しよう!

免疫 監修 感染症科スタッフ 鈴木 啓之先生

新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大するにつれ、「感染症」という言葉を耳にする機会がこれまでになく多くなってきました。今回は、その感染症についてさまざまな面からご説明します。

1.感染症とは

感染症とは、ウイルスや細菌などの病原体が体に侵入することで引き起こされる疾患の総称です。病原体が体に侵入しても、症状が現れる場合(顕性感染)と現れない場合(不顕性感染)とがあります※。症状が現れるかどうかは、病原体の感染力と身体の抵抗力のバランスで決まるのです。


※・無症状性感染…細菌やウイルスなどの病原体が体内で増殖し、症状が現れることを言います。
 ・不顕性感染…病原体に感染しても症状が現れないことを言います。そのまま病原体が消失することもあれば慢性的に感染が継続することもあります。


2.病原体の種類

細菌…目では見ることができない単細胞生物で、大腸菌や肺炎球菌、ブドウ球菌などがあります。その大きさは1~5μm(マイクロメートル)と言われており、感染した場合は抗菌薬(抗生剤、抗生物質)で退治します。


ウイルス…インフルエンザウイルスやノロウイルスがあります。その大きさは20~300nm(ナノメートル)と言われており、細菌の1/10~1/100程の大きさです。感染した場合、抗菌薬は効きません。特定のウイルスに対しては抗ウイルス薬が用いられることがあります。


寄生虫……人や動物の体内に住みつき、栄養をせしめて生きる動物です。原虫と呼ばれる目に見えないものから、体内で10m以上まで大きくなるサナダムシなどの蠕虫(ぜんちゅう)などさまざまです。寄生虫による感染症に対しては、抗寄生虫薬や抗菌薬、抗真菌薬は効果が見られることがありますが、単独ですべての寄生虫に効く薬はありません。


3.感染経路

感染症の病原体が生体に侵入する経路を、感染経路と言います。代表的な感染経路には、微生物の種類によって、空気感染、飛沫感染、接触感染、媒介感染などがあります。病原体となる微生物は、例えば熱に弱かったり、湿度に弱かったりするなど、それぞれ生きられる環境が決まっています。その為、種類により感染経路や予防法が異なります。基本的には、感染経路として大部分を占める接触感染に対する簡単かつ効果的な予防策として手洗いが、飛沫感染の予防に対してはマスク着用をはじめとした咳エチケットが重要とされています。



経気道感染
空気感染:咳やくしゃみで空気中に放出された飛沫が小さい粒子(直径0.005mm以下)となって空気中に漂い、それを吸い込んだ人が感染します(結核、麻疹、水痘など)。
飛沫感染:咳やくしゃみ、会話などで飛び散った飛沫(直径0.005mm以上)を直接吸い込んで、感染します(インフルエンザ、風疹など)。


・経口感染
水をはじめとした飲食物の摂取、感染者の接触したものを口に含むなど、間接的に病原体が口に侵入することによって感染します(A型肝炎、腸チフス、ノロウイルスなど)。



・接触感染

直接触れ合ったり、ドアノブなどの器具の接触を介して感染します(インフルエンザ、ノロウイルス、性感染症など)。


・動物媒介感染
昆虫やダニなどの節足動物を介して感染します(マラリア、デングウイルスなど)。


4.感染によって引き起こされる主な症状(症候群)

・上気道炎:発熱、鼻汁、咽頭痛、咳など
原因微生物の80~90%はウイルスで、飛沫感染の他に感染者の気道分泌物を介した接触感染によって伝播します。


・肺炎:呼吸困難、咳、痰、発熱、悪寒、食欲不振など
ウイルスや細菌は小児の鼻や喉によくみられ、咳やくしゃみによりうつる飛沫感染があります。


・感染性胃腸炎:嘔吐、下痢、発熱など
病原体が付着した手で口に触れることによる接触感染、汚染された食品を食べることによる経口感染があります。


その他にも病原体が感染する部位によって異なった症状が起きることがあります。時に発熱のみで感染部位がはっきりしない感染症もあります。


5.感染予防

物理的に体内に入ってくるものを100%防ぐことは、無菌室で生活しないかぎり不可能です。また、病原体となる微生物は、例えば熱に弱かったり湿度に弱かったりするなど、それぞれ生きられる環境が決まっています。その為、種類により感染経路や予防法も異なりますが、基本的には手洗いとマスクの着用が重要視されています。


手を洗うタイミング
・料理や食事をする前
・咳やくしゃみ、鼻をかんだ後
・トイレの後
・登校/出社した時、外から戻ってきた時、帰宅した時
・動物や昆虫に触れた後



石けんやハンドソープを使って泡をつくり、20秒以上かけて、ゆっくり、ていねいに洗うことがポイントです。流水手洗いができない場合には、アルコール手指消毒剤を使用するのも効果的です。消毒の仕方は手洗いと同じで、消毒剤が乾くまでしっかりと擦り込みましょう。



正しいマスクの着用方法

①鼻と口の両方を確実に覆う
②ゴムひもを耳にかける
③隙間がないよう鼻まで覆う
                      
出典1:ユニセフ https://www.unicef.or.jp/news/2020/0023.html
出典2:「新型コロナウイルス感染症の予防」厚生労働省  


6.免疫力を高めるためには

もともと私たちの体には、外部からの敵と戦い体を守る“免疫力”があります。免疫力を高めるためには、栄養バランスのとれた食生活、睡眠を含めた身体の休養、体を温める、よく笑う、適度な運動などが有効です。


また、免疫細胞の研究が進むにつれ、近年では腸内環境についても注目されるようになりました。腸は食べ物だけではなく病原菌やウイルスに接触する危険性が高い場所なので、免疫細胞が終結しています。その数は、体中の免疫細胞のおよそ7割にもなると言われており、腸内こそが免疫力を高める重要な器官なのです。


腸管の免疫力を高めるには食生活を改善し、腸内環境を整えることが最も効果的だと言われています。野菜や海藻、豆類といった食物繊維を多く含む食事を摂ると、酪酸と呼ばれる物質が腸内で増加し、粘膜の免疫力を高めたり、腸の炎症をおさえたりする働きがあると言われています※1。その他にも、ヨーグルトや味噌に多く含まれる乳酸菌を摂ることで、自然免疫の中でも重要な働きをするNK細胞(ナチュラルキラー細胞)が活性化し※2、免疫力アップにつながると考えられています。野菜や海藻、味噌などを多く摂っていた日本の古くからの食生活は、免疫力向上に適した食生活であり、現在見直されつつあります。


7.まとめ

感染症とは私たちの生活に非常に身近なもので、その種類も多岐にわたります。しかし、その病原体や感染経路を理解することで対策を講じることができます。手洗い・マスク着用を心がけることや、腸内環境を整え免疫力を高めることにより、感染症の予防に努めましょう!


【参考文献】
※1 Furusawa Y, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces colonic regulatory T cells. Nature 504: 446-450, 2013.
※2 Makino S, et al. Immunomodulatory Effects of Polysaccharides Produced by Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1J. Dairy Sci. 89: 2873–2881, 2006.


今回相談にのってくれた先生

感染症科スタッフ 鈴木 啓之先生

三重県出身、2005年三重大学医学部卒。
神戸市立医療センター中央市民病院、堺市立総合医療センター、沖縄海軍病院、亀田総合病院を経て、2017年よりアイオワ大学感染症科フェロー、現在は感染症科スタッフとして勤務中。