栄養素辞典葉酸

葉酸は、ほうれん草の抽出物から発見されたビタミンで、ラテン語で「葉」を意味する「folium」と「酸」を意味する「acid」から「葉酸(folium acid)」と名付けられました。 名前の由来からも分かるように、ほうれん草や小松菜などの葉物野菜に多く含まれていますが、鶏や牛のレバーなど動物性食品からも摂取することができます。

葉酸は水に溶けやすい水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB群に分類されます。ビタミンB群は、カラダのエネルギーをつくりだす過程をスムーズにする栄養素で、疲労を和らげ、毎日を元気に過ごすために重要な役割を果たしています。

1.葉酸の主な働き

① 血をつくりだす働き


葉酸は、ビタミンB12とともに血液の主要成分である赤血球をつくりだすサポートをしています。赤血球は骨髄で作られ約120日で寿命が尽きるため、体内では常に新しい赤血球がつくられています。



葉酸不足で起こる貧血もあるの?
一般的に貧血というと「鉄分不足」が原因であることが多いですが、稀に「葉酸不足」で起こる場合もあります。それが、“巨赤芽球性貧血”です。巨赤芽球性貧血は、葉酸とビタミンB12が不足することで、骨髄でつくられる血球細胞がうまく成熟するこができず、血液中に未熟で大きな赤血球(巨赤芽球)ができる貧血です。一般的な貧血と同じく、動悸や息切れ、疲れやすい、全身がだるい、食欲低下といった症状がみられます。

② カラダの発育をサポートする働き

ヒトの細胞の中には、生物の形や性質を決めるDNA(デオキシリボ核酸:Deoxyribonucleic Acid)
という遺伝情報がつまっており、新しい細胞をつくりだすことはもちろん、器官や臓器の発育に大きく関わっています。

葉酸はDNAの合成をサポートし、お腹にいる赤ちゃんの頃からカラダの発育に重要な栄養素といわれています。そのため、女性は妊娠前から産後にかけて積極的に摂取することが望ましいとされています。

赤ちゃんの「神経管閉鎖障害」のリスク軽減!?
「神経管閉鎖障害」とは妊娠4~5週頃に起こる、赤ちゃんの先天的発育異常です。脳や脊髄のもととなる神経管に障害が起こり、脊髄が脊椎の外に出て腰部に腫瘤が出来てしまう「二分脊椎症」や、脳が十分に形成されない「無脳症」など、症状は大きく2つに分かれます。

二分脊椎症
神経管の下部が塞がることにより脊椎の形成不全が生じる先天異常の一つ。脊髄が脊椎の外に出て、癒着や損傷を生じることがある。最も起きやすいのは腰部分だが、発生部位により運動機能や知覚に障害が起こる。
無脳症
神経管の前部が塞がることにより脳の形成不全が生じる先天異常の一つ。大脳が消失したり、縮小することがあり、場合によっては死産に至る可能性もある。

葉酸は赤ちゃんの発育にとても重要な栄養素で、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間、食品からの摂取に加え、栄養補助食品等から1日0.4 mgの葉酸を摂取すれば、神経管閉鎖障害の発症リスク低減が期待出来るといわれています。

③動脈硬化を予防する働き

葉酸はビタミンB12やビタミンB6と共に、アミノ酸の一種であるメチオニンの代謝に関わり、動脈硬化を予防します。
動脈硬化を引き起こす危険因子として知られている「ホモシステイン」。メチオニンが代謝される過程でつくられる中間代謝物で、葉酸が不足するとメチオニン代謝に異常が生じ、ホモシステインが過剰につくられてしまいます。このホモシステインは血液中の悪玉コレステロール(LDL)と結びつき、血管壁に付着することで血管が狭くなり、心筋梗塞や狭心症の原因となる動脈硬化が起こるとされています。

2.1日に必要な葉酸の量

女性は葉酸の目標摂取量が、妊娠のステージによって大きく異なります。
多くの場合、妊娠が分かるのは神経管の形成に重要な時期(受胎後およそ 28 日間)よりも遅いため、妊娠初期だけでなく妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性は、神経管閉鎖障害発症予防のためにも推奨量を意識して摂取するようにしましょう。

葉酸のとりすぎ/不足するとどうなる!?

過剰摂取している場合
現在、食品からとる場合の過剰の害は報告されていません。

不足している場合
①貧血
葉酸が体内で不足すると、カラダのすみずみまで酸素を運ぶ赤血球の数が少なくなるので、貧血が起こりやすくなります。

②赤ちゃんの発育不全
女性は妊娠時に葉酸が不足すると、生まれてくる赤ちゃんの発育不全のリスクが高まります。


3.葉酸が多く含まれている食品

葉酸が多く含まれている主な食品と、葉酸の量をご紹介します。

4.葉酸の効率的なとり方

葉酸は熱に弱い水溶性ビタミンのため、茹でる調理は水中にビタミンが溶け出し、葉酸の量が減ってしまいます。特にほうれん草や小松菜など葉物野菜を調理する際は、ラップ等に包んで電子レンジを使用すると良いでしょう。また、サラダなど生のフレッシュな状態で食べることに加え、スープやジュースでとることもできます。さらに、食品だけでなく吸収率の良いサプリメントなどの栄養強化食品もおすすめです。

参考:
1)「栄養素の通になる(第4版)」著書 上西一弘
2)『日本人の食事摂取基準 2020年度版』
3)橋本 隆男 他.ホモシステイン代謝.薬学雑誌 127, 2007.
4)厚生労働省 「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a3-03c.pdf">http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a3-03c.pdf

この記事の監修

矢澤一良(やざわかずなが)

1948年生まれ
東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科応用生命科学専攻ヘルスフード科学(中島 董一郎記念)寄附講座教授農学博士(東京大学)