「認知症」の現実と心構え

監修  菅原 道仁先生

年々増加し続ける認知症患者。主な症状や種類など、認知症とはどんな病気なのか、菅原道仁先生が答えます。

「認知症」って何?

さまざまな原因で脳の働きが悪くなり、ついさっき起こった出来事を忘れてしまったり、以前のようにものを考えられなくなる状態を言います。

日本では高齢化が進み、認知症の方が年々増え続けています。今では65歳以上の高齢者の6人に1人が認知症と言われており※1、私たちにとってとても身近なものになっています。認知症には「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」「脳血管性認知症」などさまざまな種類があり、その中でも代表的なものがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は認知症患者の70%近くを占めており、65歳未満で発症する若年性認知症患者も急増しているため、若いからと言って油断はできません。また、「軽度認知症(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と呼ばれる認知症予備軍の患者も400万人いると推定されており、認知症の予防法に注目が集まっています。※2


現在、認知症を治す薬はありませんが、予防や進行を遅らせる薬が開発されており、早期発見・早期治療がとても重要だと考えられています。「あれ?何となく物忘れが増えたかな?」と感じたら、早めに病院を受診しましょう。


※1 内閣府平成29年度高齢者白書 


※2  出典:一般社団法人認知症予防研究会『認知症にならない最強の食事(本編) 』


「もの忘れ(老化)」と「認知症」の違いは?

体験の一部を忘れるのがもの忘れ、体験したこと自体を忘れてしまうのが認知症です。


人は歳をとるにつれ、もの忘れがでてきますが、認知症の「もの忘れ」は少し違います。


老化によるもの忘れは「昨日の晩御飯が何だったか忘れた」「芸能人の名前が思い出せない」といった出来事の一部分ですが、認知症の場合は「晩御飯を食べたこと自体を忘れた」「外出先から家までの帰り道を忘れた」といったように、自分の体験自体を忘れてしまいます。また、もの忘れに自覚がないので、覚えていないことを周りの人が指摘しても、本人にとっては何が何だか分からないのです。


もの忘れと認知症の比較












































  加齢によるもの忘れ 認知症
もの忘れの内容 一般的な知識
(地名や人の名前など)
自分が経験した出来事
もの忘れの自覚 自覚あり 自覚なし
進行 進行・悪化しない 進行していく
日常生活 支障なし 支障あり
学習能力 判断力や理解力は問題なし 判断力や理解力が低下し、新しいことを覚えられない
感情 変わらない 怒りっぽくなったり、やる気がないように見えたり、疑い深くなったりする



認知症の中でも多い「三大認知症」とは?

日本で多いと言われている「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」です。


日本人で最も多いアルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβという特殊なたんぱく質などがたまってしまい、記憶を司る海馬などの脳細胞が壊れて減っていくことが原因ではないかという説が有力です。


次に多いのが血管性認知症で、脳血管の障害の部位に応じて機能が低下するため「まだら認知症」とも呼ばれることも。動脈硬化が進行し脳血管が詰まってしまったり、破れてしまうことが原因で脳の神経細胞が損傷を受けてしまうことが原因です。
3番目に多いレビー小体型認知症は、脳の広い範囲にレビー小体という異常なタンパク質がたまり、脳の神経細胞が徐々に減っていく病気です。


























認知症の種類 症状の特徴
アルツハイマー型認知症 ・最近のことを忘れることから始まることが多く日常生活でできることが徐々に減っていく
・認知症であることを認めない傾向がある
血管性認知症 ・脳血管の障害の部位によって症状さまざま
・症状の進行は徐々にではなく、階段状に進行することが多い
レビー小体型認知症 ・幻聴や幻覚がある
・手が震える
・すくみ足などのパーキンソン症状が目立つ



もし家族や親しい人が認知症になったらどうすればいいの?

認知症という病気をきちんと理解して、温かく見守りながら優しいサポートを心がけましょう。

認知症の人と会話をする時は、相手のペースに合わせながらできるだけ意思をくみ取り、穏やかに接するようにしましょう。否定しない、叱らない、無理やり言い聞かせようとしないことがポイントです。
また、認知症患者を一人にさせず、いろいろな人と交流してもらうように工夫しましょう。常に行動をよく観察し、細かい変化を見逃さないようにしましょう。


家族が認知症になった場合の主な相談先


・かかりつけの医師


・医療機関の「もの忘れ外来」


公益社団法人 認知症の人と家族の会「全国もの忘れ外来一覧」
http://www.alzheimer.or.jp/?page_id=2825


・地域包括支援センター


厚生労働省 地域包括ケアシステム 全国の地域包括支援センターの一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/


認知症の効果的な予防法は?

日頃から脳の健康を保つために、認知症で低下しやすい機能をケアすることが大切です。適度に身体を動かし、脳の血流がよくなる食事を心がけましょう。

残念なことに2020年現在、認知症を治す薬はありませんが、近年の研究では軽度の認知障害(早期)であれば、予防や改善が可能だと考えられています。それには特別なことを行うことではなく、普段の生活習慣を見直すことで予防ができます。適度に身体を動かすような健康的な趣味を継続し、脳を刺激することが、認知症の予防につながります。


私がオススメする認知症予防の生活習慣は、「カキクケコ」です。



・カ(噛む)…「噛む力」を保って、海馬を育てる
・キ(聞く)…「聞く」ことができなくなると物忘れが悪化しやすい
・ク(口元)…ストレス厳禁、「口元」を上げて笑顔でいること
・ケ(血管)…「血管」を守る食生活と運動習慣
・コ(交流)…「コミュニケーション」で脳を鍛える



そして、「もう年だから・・・」という気持ちは厳禁です。好奇心を忘れずに生きがいを持ってワクワクしてチャレンジする気持ちを持ち続けることが最大のポイントです。


認知症の中でも、アルツハイマー型認知症は脳に必要な栄養素が不足することで引き起こされる場合があります。認知症予防に効果的な食べ物としてはイワシ・サバ・サンマなどの青魚があげられます。青魚は脳の血流を良くするだけでなく、コレステロールを下げたり、血液をサラサラにする効果が期待できます。また、「イチョウ葉エキス」は、脳の血液循環不全の改善に加え、記憶力の改善や抗酸化作用などの効果があることで最近注目されている成分です。海外ではこのイチョウ葉エキスの効能が認められ、認知症の治療薬として扱われています。毎日の習慣として取り入れてみるのも良いかもしれません。


今回相談にのってくれた先生

 菅原 道仁先生

脳神経外科医。医療法人社団SH 菅原脳神経外科クリニック理事長。1970年生まれ。

杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞などの緊急脳疾患専門医として国立国際医療研究センターに勤務。2000年から脳神経外科専門の八王子・北原国際病院に15年間勤務し、2015年6月、八王子に菅原脳神経外科クリニックを開院。「物忘れ」や「認知症」だけではなく頭痛やめまいなどの脳の病気・予防を中心に診察を行う。2019年10月に港区赤坂に「菅原クリニック 東京脳ドック」をリニューアルオープン。

テレビ「名医のTHE太鼓判!」(TBS)出演の他、著書に『認知症予防のカキクケコメソッド』(かんき出版)、『成功の食事法』(ポプラ社)などがある。

https://allabout.co.jp/gm/gp/102/profile/