免疫力アップに必要な3か条

免疫 監修 女子栄養大学名誉教授 林 修先生

新型コロナウイルスの感染拡大により、昨今問題視されているのが「免疫力の低下」。新型コロナウイルスの重症患者はシニア層に多く、重症化する原因には免疫機能が大きく関わっていることがわかっています。
人生100年時代の到来とともに、シニアこそ免疫力をアップして、健やかで楽しい人生を送りませんか?
今回は、免疫力低下のメカニズムとその対策について解説します。

加齢による免疫力低下のメカニズム

「免疫」とは、細菌やウイルスなどの病原体から自分のカラダを守る仕組みのことを言います。

免疫力低下のメカニズムは以下の2種類が考えられます。


1.生理機能の変化

1つ目は加齢による生理機能の変化です。歳を追うごとに免疫細胞であるT細胞の数が減少し、その機能も低下します。これはT細胞を供給する臓器である胸腺が20歳を超えると急激に萎縮するためです1)。



免疫系の他にも、加齢に伴って心臓機能や肺機能、代謝機能といった様々な生理機能が低下することが知られています。30歳を機に低下し始めるこれらの生理機能は、65歳を境にさらに低下します。特に、肺機能や腎機能は30歳と比較して80歳では50%以下まで低下するとされています。

免疫力低下に加えて、これらの生理機能が低下することにより、病気になるリスクや重症化のリスクが高まります。

しかし、これらは加齢・老化という自然な体の営みによるものなので、抗うことなく受け入れる必要があるでしょう。



2.生活習慣由来の変化

2つ目は生活習慣由来の変化です。歳を重ねると、多くの人が「栄養」、「運動」、「社会参加」が不足してしまいます。栄養や運動が免疫力を高めるために重要なことはよく知られていますが、家に閉じこもりになって精神的なストレスをためこんでしまうことも、免疫力を低下させる大きな要因となっています。

年齢とともに生理機能が低下することはやむを得ませんが、生活習慣は個人の意識と行動次第で改善が期待できます。


高齢における新型コロナウィルスの重症化率

新型コロナウイルス感染症を例に見てみると、重症化する人の割合や死亡する人の割合は年齢によって異なり、高齢者は高く、若者は低い傾向にあります(直近の新型株の重症化傾向は異なる)。2020年6月以降に診断された人の中では重症化する人の割合は約1.6%(50歳代以下で0.3%、60歳代以上で8.5%)、死亡する人の割合は約1.0%(50歳代以下で0.06%、60歳代以上で5.7%)となっています2)。


※「重症化する人の割合」は、新型コロナウイルス感染症と診断された症例(無症状を含む)のうち、集中治療室での治療や人工呼吸器等による治療を行った症例または死亡した症例の割合。


この現状からも、いかにして加齢や生活習慣による免疫力の低下を最小限にとどめるかが、健康な老後生活を送るうえで重要だと言えるでしょう。


 



免疫力の低下とフレイル

フレイル(虚弱)とは、体重の減少、歩くスピード・筋力の低下などに陥った状態で、要支援・要介護となる前段階のことを指します。高齢になるにつれ、食欲の低下や食べにくさから必要な栄養素が足りなくなると「低栄養」となり、フレイルになりやすくなります。フレイルが進むと、身体能力や認知機能の低下も見られ、もちろん免疫力も下がります。体が思うように動かなくなる前に、低栄養の予防をしましょう。



免疫力アップに必要な3大項目

それでは、シニアの免疫力アップのために必要な3か条を紹介します。





①たんぱく質の摂取

フレイルの大きな要因となる低栄養。歳を重ねるほど低栄養の傾向が強くなり、厚生労働省の「2015年国民健康・栄養調査」によれば、80歳以上では5人に1人が低栄養状態とされています3)。低栄養状態が続くと軽い病気でも快復が遅くなったり、生活習慣病が重症化する危険性が高まったりするため、注意が必要です。




低栄養の予防に最も重要なのがたんぱく質によるエネルギーの摂取です。フレイルを予防するために、シニア (65歳以上)では、1.0g/kg体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいとされ4)体重が60kgの方は1日に60g以上のたんぱく質摂取を目標とします。

食が細くなると、必要なたんぱく質を体に取り込めていない状態が続きやすくなります。特に主菜となる肉や魚などは、意識して食べるようにしましょう。




②ビタミンの摂取

ビタミンは近年、免疫力アップで注目を集めています。特に、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンDは「防御ビタミン」と呼ばれています。ビタミンAは皮膚や粘膜細胞の機能を維持し、ビタミンCは体内に侵入したウイルスや細菌と戦う白血球などに多く含まれ、ビタミンDは過剰な免疫反応を抑えるので、どのビタミンも免疫力アップに役立ちます。ビタミンは野菜や果物に多く含まれるので積極的に摂取し、不足分はサプリメントなどで補うのも良いでしょう。





③腸内環境を整える

腸は食べ物だけではなく病原菌やウイルスに接触する危険性が高い場所なので、免疫細胞が集結しています。その数は、体中の免疫細胞のおよそ7割にもなるといわれており、腸内こそが免疫力を高める重要な器官なのです。きのこや大麦に多く含まれ、善玉菌を増やしてくれるβ-グルカンや、腸内の白血球を活性化することで全身の免疫力を高める乳酸菌は、免疫力アップのために腸内環境を整える成分として非常に注目されています。




? 栄養素辞典

「β-グルカン」

「乳酸菌」



④歯や口のお手入れ

毎日の歯や口のお手入れを丁寧に行うことでも、免疫力のアップが期待できます。

口の中には、常在細菌といって体を守る働きをする細菌がいる一方で、悪さをする細菌もいます。この悪さをする細菌やウイルスを、歯磨きによって減らすことが免疫力アップにつながります。また、口の中にはもう一つ細菌の塊があります。それは舌の表面についた舌苔(ぜったい)です。これらの細菌を毎日のお手入れで減らすことにより、口の中の免疫が十分に働くことができるようになるのです5)。







免疫力アップに必要なこと、2つ目は運動です。

フレイルの予防が免疫力低下を防ぐことは説明しましたが、フレイルを防ぐためには、運動による筋力・体力アップが健康維持や症状の改善に欠かせない対策の一つです。フレイル予防、特に筋力や身体機能の低下を指す「サルコペニア」の早期予防において運動療法は効果的です。歳をとってから運動しても、効果がないだろうと思う方が多いかもしれませんが、そんなことはありません。筋力が落ち、歩行機能が低下したシニアを対象に1時間程度の運動を週2回行った調査では、1年間で筋肉が5.5%増加したと報告されています6)。筋力トレーニングを行えば、高齢になっても筋肉を増やすことができるのです。



おすすめ運動プラン


年齢や能力に応じて以下の運動のうち一つ以上を行うことで、免疫力アップにつながります7)。自分に合った運動法を見つけて、毎日の“元気”をつくりましょう。



また、毎日の歩数を計測することは体力維持に有用で、65歳~74歳の方は1日7000歩以上、75歳以上であれば1日5000歩以上歩くことが推奨されています8)。




レジスタンス運動をしよう!


免疫力アップにおすすめの運動として、レジスタンス運動があります9)。レジスタンス(Resistance)は日本語で「抵抗」を意味し、筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う筋力トレーニングのことを言います。


筋力トレーニングというと、ダンベルやマシンを使うアスリートなどを思い浮かべるかもしれませんが、日常の生活で簡単にできるレジスタンス運動もあります。


水泳やウォーキングといった有酸素運動は脂肪をエネルギー源とするため、体脂肪の燃焼やダイエット効果が期待できますが、一方でレジスタンス運動は、主に筋力を増強し、基礎代謝を上げます。


高齢に伴い、筋力が落ちて運動能力が低下すると、ちょっとした段差につまづいて転倒しやすくなります。大きな事故になると、骨折をしてそのまま寝たきり状態になってしまうことも…。


レジスタンス運動で筋力をアップすることは、シニアにこそ有効な運動方法なのです。


 いくつかある種類のうち、今回は簡単にできる以下の運動を紹介します。



●かかと上げ

ふくらはぎ(下腿三頭筋)やお尻(大臀筋)の筋肉を鍛えることができます。足を肩幅に開き、膝は伸ばしたままかかとを上げて5秒静止してから下ろします。これをゆっくり10回繰り返します。立位が不安定な場合は椅子の背などに手を添えて行いましょう。





●もも上げ

腹筋や脚の付け根の筋肉(腸腰筋)を鍛えます。背もたれから背中を離して椅子に座り、お腹に力を入れて片方のももを上に上げます。座面から太ももの裏が離れるように上げてから下ろします。これを左右交互に10回ずつ行います。









免疫力アップに必要なこと、3つ目は社会参加や積極的な外出です。老化が進み体力がなくなると、外出する意欲が低下していきます。家に閉じこもり、人との接触が少なくなると会話が減るため、気分的にも落ち込みやすくなります。また、社会活動に参加しなくなると認知機能の衰えが進むことも知られているため、心身の両面で要介護・要支援のリスクが高まります。

免疫機能はストレスと密接に関わりがあるので、心とカラダをリラックスさせて副交感神経を優位に働かせることで、免疫系を正しく機能させることができます。




免疫力アップに必要なこと、3つ目は社会参加や積極的な外出です。老化が進み体力がなくなると、外出する意欲が低下していきます。家に閉じこもり、人との接触が少なくなると会話が減るため、気分的にも落ち込みやすくなります。また、社会活動に参加しなくなると認知機能の衰えが進むことも知られているため、心身の両面で要介護・要支援のリスクが高まります。

免疫機能はストレスと密接に関わりがあるので、心とカラダをリラックスさせて副交感神経を優位に働かせることで、免疫系を正しく機能させることができます。


シニア世代にとって大切なのは、ただリラックスして過ごすだけではなく、“生きがい”を持って社会と関わることです。仕事をリタイアし育児も卒業すると社会とのつながりが薄くなる人も多く、生きがいを感じにくくなります。新型コロナウイルスの感染が収束する頃には、趣味やボランティア活動などで積極的に外出し、“生活の質(QOL)”を向上させるのも免疫力アップの秘訣です。社会参加に役立つ情報が載っているサイトを紹介しますので、参考にしてみてください。



・東京都福祉保健局 東京ホームタウンプロジェクト


シニアを中心に、地域で元気に活動している団体を紹介。


https://hometown.metro.tokyo.jp/machikado/senior_group/


 


・明るい長寿社会づくり推進機構


シニアの社会参加や交流の場、くらしに役立つ情報を紹介。


https://nenrin.or.jp/ikigai/organization.html


 


・趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)


同じ趣味の中が見つかるシニア世代を中心としたSNS。


https://smcb.jp/


 


・ほわっと東京


東京の教室・スクール・お稽古・習い事の情報検索サイト。


https://top-jp.tokyo/


まとめ

シニアの免疫力アップのために必要なこととして「栄養」、「運動」、「社会参加」をキーワードに解説しました。生活習慣を改善して病気に負けない強いカラダを作り、いきいきとした生活を送りましょう。


 


【参考文献】


1)Kawai Y, et al. Claudin-4 induction by E-protein activity in later stages of CD4/8 double-positive thymocytes to increase positive selection efficiency. PNAS 108, 2011.


2)厚生労働省.新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識(2021年6月版)


https://www.mhlw.go.jp/content/000788485.pdf


3)MDBトレンドレポート フレイル対策(株式会社日本能率協会総合研究所)


4)厚生労働省.日本人の食事摂取基準(2020年度版)


5)日本歯科医師会.口腔ケアで免疫力アップ!https://www.jda.or.jp/corona/Oral-care-Immunity.html


6)Yamada M, et al. Nutritional Supplementation during Resistance Training Improved Skeletal Muscle Mass in Community-Dwelling Frail Older Adults. J Frailty Aging 1, 2012.


7)厚生労働省.健康日本21(身体活動・運動)https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/pdf/b2.pdf


8)東京都福祉保健局.東京都介護予防・フレイル予防ポータルhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kaigo_frailty_yobo/yobou/point_tairyoku/01.html


9)公益財団法人長寿科学振興財団.健康長寿ネット レジスタンス運動の効果と方法https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/resistance.html


今回相談にのってくれた先生

女子栄養大学名誉教授 林 修先生

免疫・アレルギー、腸管免疫、微生物学、機能性素材研究

1973年 東京薬科大学卒業
1978年 同 大学院 博士後期課程
薬学博士(東京薬科大学1979年)
1978~1991年 順天堂大学 医学部
1985~1987年 米国イリノイ州ノースウェスタン大学 医学部
医学博士(順天堂大学1988年)
1991~2020年 女子栄養大学 栄養学部
2020年~ 女子栄養大学名誉教授

※2021年7月現在