生活習慣の改善で予防できる動脈硬化
生活習慣 監修 医学博士、順天堂大学客員教授、東京医科歯科大学名誉教授、日本医学教育評価機構常勤理事 奈良 信雄先生
ライフスタイルの欧風化に伴い、年々増えている生活習慣病。「動脈硬化」はそうした病気を引き起こす要因になっており、万病の元とも言われています。動脈硬化の予防には、生活習慣の改善がとても大切です。動脈硬化について知り、今一度、自分の生活習慣を見直してみましょう。
動脈硬化って何ですか?
動脈の老化現象により、動脈の血管の壁が硬くなることです。
血液がスムーズに流れる為には、血管そのものが柔軟で、滑らかである必要があります。しかし、血液中の脂質や糖質の量が多くなると、血管壁(内側)にそれらの成分が付着して柔軟性が低下し、血管そのものが硬くなってしまいます。血液中の脂質や糖質の量が多くなる原因は、食事由来の場合もあれば、内臓の働きの低下などさまざまな要因があります。
どうやって動脈が硬くなるのですか?
動脈に傷がつき、その部分に脂肪やコレステロールがたまって起こります。
血管壁にある細胞は、血液が固まるのを防いだり、血管を拡げる働きを持っています。しかし、血管内の圧力が高くなったり(高血圧)、血液中の脂質や糖質の量が多くなる(高脂血症、糖尿病)と、血管に負担がかかり傷がつきます。すると血液中のLDL(低密度リポタンパク質=悪玉)コレステロールが原因で、お粥のような柔らかい沈着物がたまっていき、血管はどんどん厚くなります。このように血管壁に付着した物質をプラークと言い、プラークができた状態を粥状(アテローム)動脈硬化と言います。一方、HDL(高密度リポタンパク質=善玉)コレステロールは、動脈硬化を解消する方向に働きます。
また、喫煙や肥満も動脈硬化を進行させる大きな要因となっています。
動脈硬化が進行するとどうなりますか?
心筋梗塞や脳梗塞など、死につながる重大な病気になる可能性があります。
血管が硬くなると、血液の流れが滞り、栄養や酸素を体中に運搬できなくなります。また、プラークがどんどん分厚くなり、最終的に血管が詰まり、はがれたプラークなどが原因で血の塊(血栓)が出来てしまいます。心臓や脳など、血栓が血液の流れを止め、その先の細胞に栄養や酸素を届けられなくなることで、心筋梗塞や脳梗塞など、致命的な疾患が発生します。日本人の4人に1人が、これら動脈硬化が原因となる疾患で亡くなっています。
どんな人がなりやすいですか?
生活習慣、特に食習慣が乱れた人です。
年をとれば、誰でも細胞の柔軟性は失われ血管が硬くなります。その上で、血液検査で脂質や糖質の量が多いと指摘された人(脂質異常症、糖尿病)、血圧が高い人、肥満、喫煙者、は動脈硬化とそれによる疾患が進行しやすいリスクが高い傾向にあります。具体的には、リスクのチェック項目が以下の通りになります。
「動脈硬化」チェックリスト※1
□ LDL(悪玉)コレステロール値が高い(140mg/dl以上)
□ HDL(善玉)コレステロール値が低い(40mg/dl未満)
□ 中性脂肪値が高い(150mg/dl以上)
□ 糖尿病や境界型(糖尿病予備軍)と言われたことがある
□ 高血圧である/高血圧の薬を飲んでいる
□ タバコを吸っている
□ 肥満である(腹囲 男性85cm以上、女性90cm以上)
□ 両親や兄弟姉妹で心臓病や脳卒中で亡くなった人がいる
□ 魚を食べる頻度が週に3回以下である。
□ 魚より肉を選ぶことが多い。
□ 揚げ物など、脂っこい料理をよく食べる。
□ 間食の習慣がある。
□ 普段あまり体を動かさない
□ 脂質代謝異常(高脂血症)の薬で治療中である
動脈硬化を進行させない為に必要な事はなんですか?
禁煙、体重管理、運動、血液数値の改善、食生活の改善が大切です。
禁煙
たばこは百害あって一利なしです。喫煙者は非喫煙者に比べて、心臓病死亡リスクが1.5~4倍、脳梗塞死亡リスクが2~3倍になります。喫煙は動脈硬化を進行させる大きな危険因子なのです。
体重管理
肥満は先にあげた生活習慣病を発症、悪化させます。体重1kgの減少はLDL(悪玉)コレステロールを1%減少させると言われています。適正体重を実現・維持しましょう。
適正体重={身長(m)}2×22
運動
運動による活動量の増加は、動脈硬化の予防に有効です。有酸素運動を1日30分以上、週3日以上を目指して行いましょう。
食習慣
①栄養バランスの取れた食事※2
1日3回、主食(ごはん、パン、麺類などエネルギー源となるもの)、主菜(魚・肉、大豆製品、卵など体をつくるもとになるもの)、副菜(野菜、きのこ、海藻類など体の調子を整えるもの)、牛乳・乳製品、果物の揃った食事を心がけましょう。
例)昼食の献立
主食:ごはん中盛(150g)
主菜:焼きサンマ
副菜:野菜サラダ、煮物
汁物:豆腐とナスの味噌汁
その他:ヨーグルト
②腹八分目
満腹になるまで食べると、その分、エネルギー・食塩過多になりやすくなります。最近の研究では、食事を腹八分目で抑えることで細胞の老化を送らせることができ、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化が原因となる疾患の予防効果があると報告されました。
日本人(成人)が食事からとっている総エネルギー摂取量は、平均すると1日当たり2000kcal前後です。腹八分目(20%減)を目指すとすると、1600kcal前後が目安ということになります。普段から摂取エネルギーを意識して、献立を工夫してみましょう。
③野菜中心の食事
彩り豊かな野菜には、食物繊維、ビタミン・ミネラルや、その野菜が持つ独特のポリフェノールが多く含まれています。ポリフェノールの中には、抗酸化物質と呼ばれる、体内の酸化を防ぐ物質が含まれており、細胞の柔軟性や血液の流れをスムーズにしてくれる働きがありますので、しっかりと毎回摂取するようにしましょう。
※野菜摂取の目安は1日350gなので、1食120g程度を意識して摂取しましょう。生野菜なら両手いっぱい、加熱野菜なら片手いっぱいが目安量です。また、食物繊維を多く含む食事は、糖の吸収を緩やかにし、コレステロールの吸収を抑える働きがあります。野菜を先に食べることで、血糖値の上昇やコレステロールの吸収を抑えるだけでなく、満腹感が得られることで食べ過ぎを防ぎ、摂取カロリーの減少にもつながります。
④肉の脂身の摂取を抑え、魚類・大豆製品の摂取を増やす。
肉などの脂肪には、LDLコレステロールや中性脂肪を増やす飽和脂肪酸が多く含まれており、動脈硬化に繋がる原因となるため、摂りすぎに注意しましょう。一方で、サバやサンマ、イワシなどの青魚には、不飽和脂肪酸の一種であるEPAやDHAが含まれており、血液をサラサラにしてくれると言われています。良質のたんぱく質を含む大豆製品は、脂肪酸の吸収を抑制してくれるので、豆腐や豆類を積極的に摂ることをおすすめします。
⑤食塩を多く含む食品を控える。
日本人の平均的な1日の塩分摂取量は10~12gと言われています。味付けを工夫したり、ラーメンのスープを全部飲まないようにするなど日頃から意識して、塩分摂取量を6g未満に控えるようにしましょう。
⑥清涼飲料水や菓子等、過剰な糖の摂取を控える。
コーラやジュースなどの飲料や菓子類、果物、はちみつなど甘味の強い食品に多く含まれる果糖を摂りすぎると血中の中性脂肪が上昇しやすくなるので、気を付けましょう。
このように、万病の元である動脈硬化も生活習慣の見直し、特に食習慣の改善により予防することができます。ただし、すでに持病を持っている方は動脈硬化の治療・予防の方法が異なる可能性がありますので、主治医に相談しながら、食生活を見直していきましょう!
【参考文献】
※1 日本動脈硬化学会. 動脈硬化の病気を防ぐガイドブック
※2 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト.食事バランスガイド(基本編)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-007.html
- 今回相談にのってくれた先生
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医学博士、順天堂大学客員教授、東京医科歯科大学名誉教授、日本医学教育評価機構常勤理事 奈良 信雄先生
1950年、香川県高松市生まれ。
1975年、東京医科歯科大学卒業。
放射線医学総合研究所、カナダ・トロント大学オンタリオ癌研究所研究員、
東京医科歯科大学医学部教授を経て2015年より現職。
専門は、内科学、血液病学、臨床検査医学。
特定非営利活動法人(NPO)野口医学研究所 理事長。