コロナはただのインフルエンザ!? 昨今のウイルス事情について

浅野先生の半生から野口医学研究所誕生までの歴史など、さまざまなお話を伺った前編に引き続き、浅野嘉久氏のインタビュー後編をお届けします。

コロナはただのインフルエンザ!?昨今のウイルス事情について

―昨年から猛威を振るっている新型コロナウイルスについてお伺いします。
浅野先生は、ここまでの規模でパンデミックになることを予測されていたのでしょうか。


そもそも私は今のコロナウイルスがパンデミックだと思っていないんですよ。インフルエンザの罹患者や、最終的に肺炎や多臓器不全で亡くなる方の方が絶対に多いはずです。今の新型コロナウイルスの最終的な死因は肺炎ですが、いわゆる肺炎の原因となる風邪の一種ですよね。アメリカで250万人だろうと、ブラジルで100数十万人だろうと、毎年風邪を引いている人間は格段に多いハズです。そして日本でも毎年肺炎に因って約10万人以上亡くなっているんですよ。ですから、コロナはあくまでも“one of インフルエンザ”…、この考えは絶対に譲れません。


―コロナウイルスも例年のインフルエンザと変わりはないということですか…。
以前、浅野先生はウイルスにはサイクルがあると仰っていましたね。


はい、ウイルスとかバクテリアには成長期、安定期、衰退期があり、4~5カ月で必ず終息するんです。ウイルス感染は何回も起きていますが、いつまでもコロナウイルスのDNAから出るRNAが同じ活性度で他の動物に侵入していくとは考えられない、というのが私の確信です。ですから、最初に中国・武漢で現れたと言われるコロナウイルスと今のブラジルで流行っているウイルスはどこかで変異していると思いますよ。


―今回のコロナウイルスによってさまざまなストレスを抱えた方も多かったと思いますが、浅野先生の「未病」についての書籍は大変興味深かったです。病気ではないが、完全に健康体ではない状態…、即ち未病とのことですが、ご自身が普段からされているストレス対策はありますか?


私がやっているのは、とにかく何もしないこと…。普通に歩く以外、取り立てて過激な運動もしません。サルでも原始人でも四つ足だった時は、お腹が神経からぶら下がっている内臓を全部支えていました。それが二本足歩行になった途端に、内臓と血管と神経を支えるものが横隔膜しかなくなったんです。


神経は背骨(脊椎)で全部繋がっているわけでしょう?それをジョギングで飛んで浮いて、内臓をゆすって良いハズがない。速足で歩いても、どちらかの踵が必ず地に着いていた方がいい。ですから競歩が一番いいですね。でも私は歩きもしない。人間(燃焼機関として)のメタボリズムの中ではエネルギーサイクル(生涯燃料消費量)は決まっていますから、無駄に使わない方がいいのではないでしょうか。


私の健康法としては、体温は36度を切るくらい、平熱35度台、脈拍は60弱くらいがいいですね。


―浅野先生が仰っている未病もそうですし、「医食同源」も東洋医学の考え方ですよね?
手術や投薬など西洋医学とは対極にあると思いますが、同じ医療として交わる部分はあるのでしょうか。


私はもう絶対に「医食同源」=東洋医学だと思っていますね。うちのスタッフには管理栄養士が大勢居ますが、皆、そう思っていると思いますよ。「医は食にあり。食は医に通ずる」この原則です。だから食べる物には大いに気を付けること…。最近はコンビニ食も良くなって来ているのですが、何を選択し、どう組み合わせ、どんなスピードで食べるのかが重要なのです。やはりゆっくり咀嚼して食べるのが一番ですね。早飯、早食いはもう絶対にやめた方がいいです。


コ・メディカルスタッフの力 医療の在り方について考える

―「コ・メディカルスタッフ」という方々について伺いますが、医師ではない看護師や栄養士ら医療従事者についてどのようにお考えですか?


アメリカでは、病院の中で一番権限があり尊敬されているのは看護師なんです。最近の傾向としては、アメリカの大学の医学部に入る50%が女性になってきましたね。そして、ナースの幹部になるのは60%が男性です。


つまり、ナースとメディカルドクター、この男性と女性の比率が変わってきているんです。実際には患者さんも千差万別じゃないですか。中には、わがままな人もいるし、妙に落ち込んでいる人もいるでしょう?看護師として、そういう患者を慰めたり、支えたりすることは女性の方が上手ですよね。しかし男性は分析力に長けているので、冷静な判断が必要な時にはとても心強いですよ。アメリカではその状況に応じた対応が徹底されていますし、日本でもこの頃男性の看護師さんが増えてきましたよね。今後は職種に対するジェンダー偏見がなくなるのではないでしょうか。


そしてもう一つ、アメリカでは管理栄養士に存在感があるんですよ。特に外科の領域で…。優秀な管理栄養士がいなければ、外科医は自分の能力の判定が1ランクも2ランクも下がるんです。外科手術の後のナトリウム⇔カリウムのバランス管理に係る食事から、術後に落ちた体力を回復させるのは外科医の知識だけではできないんです。日本の医師は、知識を詰め込まれているので基礎の栄養学は知っていますが、外科医の術後栄養管理に係る知識は管理栄養士の足元にも及びません。ですから、アメリカでの管理栄養士は、特に、外科の領域で活躍しているのです。



アメリカで臨床研修を受けている日本の医学生の様子


―そういったところでも日本とアメリカとでは全然違うのですね。


そうです。日本は未だに管理栄養士というと「給食のおばさん」っていうイメージがありますよね⁈以前、90~100ある全国の医学部の中で常に上位に位置する大学の病院に知人が入院したんです。見舞いに行った時、廊下の配膳車を見たら、食べ終わったものが患者個々の名札も無く乱雑に突っ込まれていたんです。それで私は友人であった医学部長に「どの患者さんが何をどれくらい食べたかを管理栄養士はチェックしないんですか?」と聞きました。後日改善されたと聞きましたが、そんな医学部がなぜベスト12なんだ?と。日本の管理栄養士はちゃんとした地位をまだ築いていない。それが一般的なんですよね。しかし、アメリカでは管理栄養士が尊敬されていて、処方箋(ビタミンなどの補助養剤等)も発行できる。そういう意味で、日本の医学はものすごく遅れていると思っています。


―最後になりますが、これからの医学・医療をどう考えますか?


これはずっと変わらない思想と理念ですが、メディカルドクター、コ・メディカルスタッフ、全員が同じ権限、義務、責任で仲良くやってもらいたい。つまり医師がNo.1でもなければ、ナースがNo.1でもない。医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、ケアマネジャーが一つのチームとなって患者と向き合う体制が理想です。そして日本で絶対必要なのが「RT(Respiratory Therapist:呼吸器・循環器療法士)」。これは日本にはまだないんですが、日本の理学療法士とは全く違います。心臓と肺をコントロールして患者の回復への道を管理する職業があるんです。重要なのは、コロナの騒動でECMO(Extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)が話題になりましたよね?あの管理は日本では医師が行うのですが、アメリカではRT(又は麻酔医)が行うんです。RTは皮膚にメスも入れられる。そういう職業を日本は作らなければいけません。


それから、日本では介護支援専門員を「ケアマネジャー」と言いますが、米国では「MSW:Medical Social Worker:メディカルソーシャルワーカー」といい、このMSWも重要な役割を果たしています。これら6つのファンクションは誰が偉いわけでもなく、誰が権限を独占しているわけでもなく、それぞれの分野で意見が一致しないと治療方針はもちろん、患者さんの入退院すら決められないんです。ただし、その医療チームのリーダーはあくまでも医師…。診断はしますが、治療は看護師や管理栄養士。それからメディケーション、これは薬剤師。入退院と支払いに関してはMSW。日本は全部医師が決めていますが、アメリカではそれぞれのメディカルスタッフが共同でファイナルコンセンサスを作り上げるのです。



TJUでの野口プログラムの修了証書を受けとる医学生


―そういったシステムを日本でもやっていくべきだと思われますか?


はい。野口は“Not always doctor as №1”ではなく、“Doctor should, would, could be a team leader”を目指しています。


日本の医療の在り方、今後について考えさせられる貴重な機会になりました。
前編・後半にわたってお届けした浅野先生のインタビュー、いかがでしたでしょうか?
次回は、海外での研修を終え、国内外で活躍する医療従事者・野口アラムナイの方にお話を伺いますのでお楽しみに!


【プロフィール】
浅野 嘉久(あさの よしひさ)
1942年生まれ。起業家、生化学・栄養学者。博士号(女子栄養大学保健学・衛生学)。
米国財団法人野口医学研究所創立者、評議員(終身)、名誉理事。一般社団法人野口医学研究所 社員総代。
国際個別化医療学会顧問。米国日本人医師協会会員(JMSA,NY)。
トーマス・ジェファーソン大学教授会メンバー客員教授、ベトナム国立ダラット大学客員教授。